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インタビュー

なぜ今、“志”が学校改革のキーワードになるのか?――足立学園の実例に学ぶ

足立学園中学校・高等学校 副校長 髙井俊秀先生

偏差値だけで、本当にいいのか?

「進学校としての実績は着実に積み上がっていた。でも、ふと立ち止まって考えたんです。生徒は“合格”のその先を、見据えられているのかと。」
そう語るのは、足立学園中学校・高等学校 副校長・髙井俊秀先生。 大学合格実績を武器にしてきた同校が、改革の鍵として選んだのが“志共育”でした。

教育の原点に立ち返る

約30年前、大学合格者数を競うような時代の中、足立学園も例外ではありませんでした。特進クラスの担任として「10校は受けましょう」「受験料は35万円はかかります」と保護者に伝えるのが当たり前だった時代。ところが、校長の井上氏が問いかけました。
「生徒たちは、大学に合格した“その後”に、自分がどう生きたいかを描けているだろうか?」
その問いが、“志”という言葉に辿り着きました。

志共育が、学校を変えた

  • 生徒の目が変わった

    志共育に取り組む中で、生徒の目の輝きが変わっていきました。中学1年生からの導入、松下政経塾プログラムの体験、そして“志入試”の開始――5年にわたる取り組みの中で、生徒たちは「なぜ学ぶのか」「自分は何を成し遂げたいのか」を語れるようになりました。
    ある生徒は、「医療の届かない地域で力になりたい」と言い、第一志望の大学に向けて自ら計画を立て、行動を起こしています。偏差値では測れない“熱量”が、学びの中心に生まれたのです。

  • 教員のスタンスが変わった

    かつての指導は“詰め込み型”。しかし今は違います。志を起点にした進路指導は、「偏差値順の受験」から、「志に合った進路選択」へと変化しました。
    「生徒が“行きたくない学校”は受けない。第一志望しか受けない。そんな姿勢の生徒が増えているのは、彼らが本気で自分の将来を考えているからです。」
    教える側の教員も、生徒とともに変化して行ったのです。

組織文化を変えた“志”

  • 校訓の再発見――「質実剛健・有為敢闘」

    副校長・髙井先生は語ります。
    「“有為敢闘”とは、何かを成し遂げるために果敢に挑むという意味。まさに“志”の実践そのものです。志共育は、この校訓に命を吹き込んだとも言えます。」
    今では、志共育は授業だけでなく、進路指導・学校説明会・クラブ活動にまで広がっています。組織全体で志を共有することで、生徒も教職員も“自分たちの学校”という意識が高まりました。

学校説明会の主役は、生徒たち

説明会で来場者を迎えるのは、学校長ではなく生徒たち。自ら“あだがくアンバサダー”として登壇し、志共育の体験や成長の実感を語るその姿は、保護者や受験生の心に深く響きます。
「8年前には、生徒を説明会に使うなんて考えられなかった。でも今は、自分たちでクイズを作り、プレゼンテーションを行う。すべてが生徒主体です。」
学校が生徒を信じ、任せることで、教育の質が一段と高まっています。

志入試が、学校と家庭をつなぐ

2020年からスタートした「志入試」は、小学6年生が自分の志について考える貴重なきっかけとなっています。
「小学生が“志”なんて…と思う方もいるかもしれません。でも、その子の“好き”や“夢中”になっていることこそが志の種。家庭で一緒に話す時間が、親子の対話を深めています。」
現在、志入試は毎年約140人が受験。入学者の中には、クラブ活動で全国大会に出場する生徒もおり、志共育が学力・人間力・挑戦力の全てにポジティブな影響を与えていることがうかがえます。

志を育てるカリキュラムとは?

志共育は“イベント”ではなく“体系的な教育”です。

  • 中1:歴史上の偉人・大学創設者の志を学ぶ/福祉体験
  • 中2:保育園実習/企業を訪問し理念や志を学ぶ
  • 中3:実社会で職業体験/志を立てる

学校の中だけでなく、地域の保育園、飲食店、銀行などでの体験学習を通して、生徒たちは社会とつながる意義を体感しています。

教員も、学び続ける

「私たち教員もまた、志共育の受講者です。自分の志を立てるところから始めました。今では、教育コーチングや新たな声かけの技術も学びながら、時代に合った教育者でありたいと努力しています。」
子どもたちとともに学び合い、変化し続ける。志共育は、教育者にとっても“自己改革”の場なのです。

志共育は、教育改革の“軸”になりうる

今、教育現場では「学力以外に何を育てるのか」が問われています。 その問いに対する、一つの明確な答えがここにあります。
“志”があれば、生徒は自ら進路を切り開き、学校は共に育つ場となる。 足立学園の挑戦は、その可能性を私たちに示しています。


インタビュー日:2023年9月20日
場所:足立学園会議室にて

【朝日新聞社の教員向けサイト:先生コネクト】  「志」なき者に成功なし 個人探究に当初は反発も 足立学園中学高校